【総合商社】新年社長メッセージ要約(三菱商事・三井物産・伊藤忠商事)

マーケット情報

(※2023/1/6に更新しました)

今回は日本株でも根強い人気を誇る総合商社について、各社長の新年挨拶の内容に着目し、発言内容から一部抜粋しながら確認してみたいと思います。

22年はロシアによるウクライナ侵攻を主な要因として、資源価格が上昇しました。

この影響により、資源権益を多く持つ各総合商社は過去最高の業績となり、株価の著しい上昇を記録しています。

大手総合商社の1年間の株価変動は以下の通りです。

三菱商事三井物産伊藤忠商事
2022/1/43,7102,7633,519
2022/12/304,2833,8534,146
増減(%)+573(+15.5%)+1,090(+39.4%)+627(+17.8%)

ご覧の通り、各社絶好調の株価推移となり、まさに「総合商社の年」と言っても良いくらいに急上昇を果たした1年と言えますね!

私も一部の総合商社株のホルダーであり、各社の動向については常にチェックしています。

新年を迎え、各社長の念頭挨拶がありましたので、その内容にも着目し、各社の動向を見ていきたいと思います。

各社業績の振り返り

まずは各社のこれまでの業績を振り返ります。

三菱商事三井物産伊藤忠商事
FY201,7263,3554,014
FY219,3759,1478,203
FY22(見込み)10,3009,8008,000
参考:FY22上期7,2006,1154,830

コロナの影響によりFY20は各社業績が著しく落ち込むことになりましたが、翌年FY21ではV字回復を達成し、各社1兆円をうかがうレベル感で業績を伸ばすことになりました。(いずれも史上最高益を計上することになります)

さらに、FY22の業績見込みでは三菱商事が1兆円を達成する見込みとして決算を発表しており、まだまだ好調を維持していることが分かります

22年11月の上期決算発表でも各社順調に進捗していることを示しており、資源価格の高騰や円安による恩恵を享受し、プレゼンスの高さを感じることが多いですね。(三井物産について上期決算のレビューをしていますので、ご参考までに関連リンクを掲載します)

一方で、商社はモノや技術を持っているわけではなく、事業を主体的に創出する役割を担い、それ故に時流に適した経営が求められています。

各社長の年頭挨拶を確認して、各社の動向を改めて確認したいと思います!

各社長の年頭挨拶概要

三菱商事(中西 社長)

まずは今期1兆円の大台に乗ることが確実視される業界最大手の三菱商事から見ていきましょう。

(三菱商事ホームページより抜粋:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html)

仕事始めに当たって、本日は「①2023年の世界・日本の展望」と「②2023年に重点的に実行していく重要課題」の2つについてお話したいと思います。

昨年の1年間は、正に「激動の2022年」と言うに相応しい年でした。皆さんも、改めて事業環境の変化が、想定もしないインパクトで起きることを実感されたと思います。2023年を展望する上で、地政学リスクと脱炭素という2つの事象について触れておきたいと思います。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

まずは冒頭で従業員への感謝の意を述べた後、「23年の世界・日本の展望」と「23年に重点的に実行していく重要課題」について述べていくことになります。

23年の世界・日本の展望を語るにあたり、現状事業を運営していく上で欠かせない観点である「地政学リスク」及び「脱炭素」の観点について触れています。

まずは「地政学リスクについて」です。

昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻。このロシア・ウクライナ紛争に伴い、コロナ禍からの回復の過程で正常化されると思われていたグローバルサプライチェーンは、逆に更に脆弱性を露呈しました。そして歴史的なインフレの中、欧米は金融引き締めに舵を切り為替相場もかつてない程の変化に見舞われました。ロシア・ウクライナ紛争の帰趨は未だ見通せません。また、中国は経済成長よりも国内の統治を優先する方向に一層向かっているように見えます。ゼロコロナ政策の負の影響もあり、当面の間、低成長に留まる展開も想定しなくてはなりません。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

①ウクライナ侵攻②欧米による金融引き締め③中国のゼロコロナ政策を要因として今後の世界経済の失速(低成長)の可能性について言及しています

地政学的な不確実性も継続するとの認識を改めて持ち、食料・エネルギーは勿論の事、当社が関与するあらゆるサプライチェーンで、地政学的情勢の変化に脆弱なチョークポイントを抱えていないか、など、様々な観点から冷静に俯瞰することも必要です。昨年5月の中経策定時から、外部環境の前提条件は、想定の範囲内で推移しているものの、常に不確実性の高い環境を想定し「備える」思考を持って、半歩先・一歩先を読んでいくことが重要です。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

そして、事業を展開するサプライチェーンの中で地政学的変化に脆弱なポイントがないか、様々な観点で俯瞰する必要性を説いており、同社がグローバルに事業展開するにあたり常にリスクを見極めるよう注意喚起しているように見受けられますね。

続いて「脱炭素」についてです。

米国ではインフレ抑制法が制定されたことに伴い、脱炭素関連のプロジェクトや技術革新が加速度的に進展していくことが想定されます。欧州も、足元の厳しい情勢から一時的にスローダウンを余儀なくされる可能性はあるものの、「脱炭素」と「脱ロシア依存」の両立という明確なアジェンダに基づき、グリーンへの移行を加速させる方向感は全く揺らいでいません。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

欧米諸国を牽引役として「脱炭素」の潮流がさらに加速する状況に言及しています。

三菱商事は資源権益を豊富に保有しており、「脱炭素」は目下大きな課題として認識されていることでしょう
例えば、サハリン2プロジェクトでは、三井物産と共にロシアの天然ガス権益を保有しています。

従い、グローバルに事業を展開するにあたり、「脱炭素」と「脱ロシア」を進める流れには逆らえず、ポートフォリオの見直しが必要となることでしょう。

こう言った認識の下で、中経2024では「強い日本」の復活、それをEX・DXを通じて新しい産業の創出に挑もうと、「EX/DXの一体推進による未来創造」を掲げました。カーボンニュートラル社会の実現、エネルギーの安定供給、産業競争力の維持・向上の3つのアジェンダを実現させ、日本経済の復活に目に見える貢献を形にしていくことで、当社の成長につなげる年にしたいと思っています。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

さらに「強い日本」の復活を唱え、DXだけではなく、EX(Energy transformation)により新たな産業の創出を掲げています。

日本を代表する企業としての使命感を感じる一文ですが、①カーボンニュートラルの実現②エネルギーの安定供給③産業競争力の維持・向上をアジェンダとして、この実現により日本の復活、および同社の成長に繋げていく、と語られています

原料炭などの資源分野から大きな利益を得てきた三菱商事が今後どのような産業に進出していくのか、個人的には大変興味がありますね!

続いて「23年に重点的に実行していく重点課題」についてです。
今後の三菱商事の大きな方針が掲げられているため、大変興味深い箇所ですね。

大きく分けて①循環型成長モデルの着実な遂行②EX③DXを活用した地域創生を掲げています

循環型成長モデルを回すに際しては、国内外を問わずそれぞれの事業現場で、不断の見直しによるムリ・ムダの徹底的な改善や、事業環境の変化への対応を進めるとともに更新投資の着実な実行と収益化を通じ、既存事業としての競争力を上げていくことで、ポートフォリオの強靭化に、今一度取り組んで頂きたいと思います。​

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

まずは①循環型成長モデルの着実な遂行についてですが、既存事業の断続的な改善を要求されています
また、既存事業運営にあたって周辺環境の変化にも適応すべく、必要となる投資の実行や収益化を通じてポートフォリオの拡充を目指されているようです

各商社で新規事業の取り組みを進めていますが、どうしても収益化までには時間を要します。

したがい、収益化を達成するまでの間は他事業で稼ぎ続ける必要がありますので、既存事業の収益という安定的な基盤作りをさらに進めてほしいという内容と理解されますね。

次に②EXについてです。

中経2024の成長戦略の1つですが、EXタスクフォースを中心とした関連グループ間での議論を経て、200件ほどあったロングリストから、この3年間で何に優先的に手を打つのか、ショートリスト化が概ね出来上がっています。勿論、マネジメントとしては、各地域の政策動向なども踏まえて不断の戦略見直しを行って参りますが、本年からは、いよいよ、実行に移すタイミングです。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

上記の通り、三菱商事は資源権益を保有し、それによる高収益を享受して成長を遂げてきました。

地政学的なリスクやグローバリズムの脆弱性を目の当たりにし、各国エネルギー戦略の見直しが急務となっていますが、三菱商事が大きな役割を発揮することが求められています。

三菱商事では”EXタスクフォース”を組成し、優先的に取り組むショートリストの作成を完了する見込みで、23年からは実際に行動に移すと語られており、同社がどのような戦略を打ち出してくるのか、非常に楽しみに待ちたいと思います!

最後に③DXを活用した地域創生についてです。

スマートフォンやアプリに代表されるデジタルタッチポイントの拡大に伴い、デジタルとリアルの融合の重要性はますます高まっています。デジタル企業はリアルを有するビジネスにリアルを主とする企業はデジタルへと、それぞれ領域を広げていく動きは今後も加速していくでしょう。これらの流れを捉えて、当社の強みであるB to Bネットワークを活かし、リアルを主とする企業や自治体のDXに伴走しながら、それらが有する顧客基盤にアクセスしていきます。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2023/html/0000050466.html

デジタルの活用という観点では総合商社はやや遅れを取っているように感じておりますが、三菱商事では引き続き地方自治体や企業などのパートナーと共に事業を展開していくことを掲げています。

三井物産(堀 社長)

続いて三井物産の堀社長の挨拶です。各社と比較すると非常にシンプルな内容になっています!

(三井物産ホームページより抜粋:https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2023/1245541_13866.html)

当社を取り巻く外部環境はかつてない転換期を迎えています。その中で想うことは、更に続いていく不確実性、事業環境の変化にどう臨めばよいか、という大事なテーマです。

強い事業群が、当社の広範な事業軸、あるいは地域軸で夫々パフォーマンスを出すこと、これは当社の強みであり、またその結果の分散効果が最大の下方耐性を生んでいきます。同時に環境の変化がもたらす当社にとっての新たなチャンスを獲得するための礎でもあります。

https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2023/1245541_13866.html

22年の振り返りを述べた後、23年に向けた内容としてまずは不確実性の高い事業環境の中で改めて総合商社という事業体の優位性について述べられています。

総合商社は「カップラーメンからロケット」まで取り扱うと言われているほど幅広い分野で事業を展開しており、そのポートフォリオは非常に分散効果が効いていると言えます

例えばコロナ禍では各国のエアラインが旅客需要の低迷により大きな打撃を受け、倒産や資金繰りの悪化が報道されるなど、非常に厳しい状況に陥ることになりました。

しかし、総合商社のような事業体の場合は、ある分野で事業環境が悪化しても、その分散効果により、深刻な状況に陥ることを防ぐことが出来るのですね。

もう一点は、産業横断的な取組の深化です。これは我々の宝となってきています。この取組を更に推し進め、本物の成果を出すためには、お互いに対する責任の所在、crossでのaccountabilityを明確にすることが鍵となります。仕事をやり切るチームを現場で組成して会社が懐深く徹底支援していく体制を改めて標榜します。

https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2023/1245541_13866.html

2つ目として、産業横断的な取り組みの深化を掲げています。

上記の通り、総合商社は幅広い事業を展開していますが、それぞれの事業分野だけではリソースが足りずに十分な事業を運営できないことがあるかもしれません

そのような場合は、社内にいる専門家と連携して取り組むことで、一つの組織では成し遂げられないことが実現出来るかも知れませんよね。

これも総合商社の強みであり、社長がおっしゃる通り「宝」なのでしょう。

伊藤忠商事(石井 社長)

最後に伊藤忠商事の石井社長の挨拶です。同社の特徴が出ている内容で非常に面白いですよ!

(伊藤忠商事ホームページより抜粋:https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230104.html)

本日は皆さんに2つの事をお伝えしたいと思います。1つ目は、我々はこの難しい情勢にあっても8,000億円のステージを目指して、改めて基本を確認し、原点に戻ろうということです。皆さんは昨年末から伊藤忠の歴史を振り返る、あるいは伊藤忠を感じるイベントが連続していた事をご存じでしょうか?

https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230104.html

まずは今期見通しの純利益8,000億円達成のため、原点”に立ち返ろうと説いています
この後、同社のイベントについて説明がありました。

この昨年末に起きた祖業への振り返りを想起させる出来事は、初代 忠兵衛翁からのメッセージだと感じ、気を引き締めています。そのメッセージには、更なる飛躍に向け、今こそ伊藤忠の原点である近江商人の商売理念である「三方よし」や行動規範である「ひとりの商人、無数の使命」を復唱し、幾多の試練を乗り越えてきた伊藤忠の不屈の精神を心に刻み、初心に帰り商いに励めと言われている気がしています。当社の利益は、ひとりの商人たちの商いの積み重ねです。改めて皆さんにも初心に帰る、つまり、商いの基本に帰ることを心掛けて頂きたいと思います。

https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230104.html

近江商人の商売理念である「三方よし」や伊藤忠グループの行動規範「ひとりの商人、無数の使命」を改めて唱え、原点に立ち返る重要性が改めて述べられています

2つ目は、8,000億円のステージにつながる基礎収益力の着実な積み上げに向けて、今一度各組織で設定した将来の目標や、やるべき施策、進捗の再評価を全員で行い、その実現に向けた各自の任務と意義を再確認し合って頂きたいということです。
サッカー ワールドカップの予選リーグ、スペイン戦をTV観戦いたしました。「ゴールラインギリギリの1mmまでボールを追い続けた三苫選手とそのパスを信じてシュートを決めた田中選手」、この昨年の侍ブルーの活躍は、全ての選手がチームの為に一瞬も手を抜かず、そして基本に忠実に、自分のやるべき事をしっかりやりきった結果だと評価しています。我々も手を抜かず、一人ひとりが自分のやるべき任務と意義を確認しながら行動することが、組織の目標達成につながるのだと思いました。 

https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230104.html

先日のカタールW杯での日本代表についても触れながら、各人の任務や意義について再考し、行動することにより組織の目標達成につながるとの内容でした。

冒頭に続き、独特なご挨拶でありますが具体例を出しながら明快な内容であり、従業員にとってはモチベーションの高まるご挨拶であったのではないでしょうか。

当社の収益規模も2年連続の8,000億円超が見えてきていますが、これは円安や資源プレミアムの好影響も含まれた結果であり、まだまだ真の力がついた訳ではありません。初心に帰り、お客様や社会が求めているものが何か改めて考え、自分たちが今やらなければいけない任務と意義を確認しながら、行動することが重要です。

https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230104.html

改めて初心に返り自らの任務と意義の再確認と行動に移す重要性について述べられています。

商いのネタは社内にはなく、現場にしかありません。現場から離れれば、あっという間に他社に置いて行かれます。我々が直面するその現場では、次々に取引の多様化、多角化、異業種連携が進んでおり、日々進化しています。そして現場には、縦割り発想では対応できない異業種連携型のビジネスチャンスが増えているような気がします。いつも同じ世界で、同じ方向から、同じ仲間だけでの発想では限界があります。常に新たなチャレンジが必要であり、決して世間の進化に遅れることなく、一人ひとりがリーダーとして各事業を牽引するぐらいの気概をもって取組み、今年も我々の底力を存分に発揮していきましょう。

https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230104.html

冒頭から一貫して現状に甘んじることなく、更なる改善を求める社長の意志が強く伝わる内容だったかと思います。

まとめ

今回は総合商社の大手3社について、年頭の社長挨拶概要を取り上げました。

各社の社長コメントを見るだけでも色が出ていて大変興味深い内容だったかと思います。

一言でざっくりまとめてしまうと、三菱商事が事業の大きな方向性を示し三井物産は組織間の連携強化を掲げ、伊藤忠は商売の原点に立ち返る必要性を説く、といった内容でしたね。

伊藤忠社長のコメントにもありましたが、現在各社の業績は「資源価格の高騰」と「円安」による影響が大きく、外部要因に因るところが大きいです

それ故に、現状に満足することなく、外部環境が平常に戻った時にも安定して稼ぐ力が求められており、そのための準備を早急に進めることが重要になると思います。

今後も各社のニュースリリースや決算情報を追いながら、動向を注目していきます!

今回は以上となります。ありがとうございました。

この記事を書いた人

背徳太子

ブログ1年目の駆け出しブロガーです。

社会人をスタートさせ2年半程度で資産1,000万円まで到達しました。
本ブログでは、個別銘柄の分析、企業決算情報、経済ニュースなどを中心にして皆さんの投資判断の一助となるような情報発信をしています。

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